昨日「ミュージアムで幸せ(ウェルビーイング)になる。英国編」(国立アートリサーチセンター、東京芸術大学主催、ブリティッシュカウンシル共催)に現地参加した。発表者のスライドの翻訳にかかわらせていただき、その意図と内容はおおよそ理解していたつもりだったが、それ以上の希望と感動を与えてもらった。
私なりにまとめると、人は、年をとっても、病気(主にメンタルヘルスや認知症)になっても、そしてジェンダーや人種、社会で置かれた状況にかかわりなく、尊厳をもって人や社会とつながっていることで、自信とやりがいを持ち、ウェルビーイング(幸せ)でいられる。そんな社会を、博物館や美術館という場や資源(そこにいる人たち、モノ、知恵など)で実現するという内容だった。この分野で先進的な英国の事例を紹介しながら、まさに参加者を巻き込んだ、「インターアクティブ(双方向性)」で「インクルーシブ(包摂性)」な形の仕掛けの中フォーラムはすすめられた。
英国ですすめられている「社会的処方(Social Prescribing)」は、従来の医療の枠を超え、コミュニティや人とのかかわりを「処方」し、そこに関わることで、人が幸せ(ウェルビーイング)になる手助けをするという取り組みである。そこに博物館や美術館が主体的にかかわり成果を上げている。すでに10年を超えて取り組まれている。認知症患者やその家族をサポートするナショナル・ミュージアムズ・リバプールのハウス・オブ・メモリーズ、かかりつけ医(GP)とのパートナーシップで成果を上げているダリッジ・ピクチャー・ギャラリーのとりくみ、50歳以上の女性の問題を見える化し成果を上げているマンチェスター市立博物館の取り組みや、元市立衣装博物館を利用した地元コミュニティを巻き込んだプログラム、テートで若者に対する「ケア」の取り組み、そして、日本からは東京都立美術館の取り組み。
4倍の倍率だったという会場参加者も様々な立場(認知症に取り組む心理学者やアート関係者など)で日々の中での問題意識を共有し、また各テーブルに登壇者が回りながら会話を深めるという、活気あふれる、そして希望と未来を感じるフォーラムだった。
東京芸大学長の日比野克彦氏の、困難はあっても「夢は語らなければ実現しない」という言葉、登壇者でハウス・オブ・メモリーズのディレクターであるキャロル・ロジャース氏の「Be confident, be courageous, be ambitious(自信と勇気をもって、大志を抱こう!)」という言葉が心に残っている。
誰も取り残さない、年をとっても、病気になっても幸せに生きられる社会、その人たちともともに歩ける社会になることを願って。