Office the Globe

翻訳支援ソフト

翻訳支援ソフトが一般に使用されだしたのは、1990年代後半である。

マニュアルなど、改版や複数の文書で重複分が多いものでの需要側の悩みは2点。同じ文書、文言なのに翻訳文が割れること。つまり原文では同じことを言っているにもかかわらず、翻訳文では異なる訳(原文の意味は正しく訳されているが異なる単語や文体で書かれていること)が割り当てられるため、文書間、元の文と改定個所の文に齟齬が生まれ、読者が同じことを言っていると認識できないという事態が生じる。もう1点は、同じ文書を同じように訳すにもかかわらず、再度翻訳料金が発生することである。

この悩みを解決したのはCAT(Computer Assisted Tool)と呼ばれる翻訳支援ソフトである。これは、すでに翻訳された原文と訳文を一文ごとに対にし、データベースとして登録。翻訳する原文に対し、過去のデータベースから同じもの、似たものを引っ張り出してきてその翻訳文を提示するという便利なものである。代表的なものに現在も受け継がれるTradosWordfastなどがある。

この翻訳支援ツールは、1990年代のIT関連分野の翻訳需要の急拡大と相まって急速に普及した。当初は1文ごとのデータベースからの引用であるため、文脈に沿った翻訳を邪魔する、翻訳者が独自に工夫していた自身のツールが使えない、ツールの購入にお金がかかる、結局翻訳料金が割り引かれることになるのではといった、現在では機械翻訳の導入時に聞かれるような反発もあったが、経済のグローバル化に伴い大量の翻訳が短期間に必要となったクライアント側のニーズの中で、大多数の翻訳者は翻訳支援ツールを使用するようになった。

このツールが広く使用されるようになってから30年近く。使用者側のニーズに答え、様々な機能が追加されたが、最大の利点は、過去のデータを瞬時に参照できることに尽きる。過去訳をどう使うかは翻訳者の力量であるが、それ以前にその分野、会社、部門でどのような言葉、言い回しが使われてきたかを知るのは、その分野に精通する翻訳者であってもそれなりの手間がかかる。それが一瞬のうちに過去のデータが見つかるのであるから便利この上ない。

そのうえ、ここに蓄積された対訳データは優良なコーパスとして、現在ニューラルネットワークによる機械翻訳(NMT)のデータとして効率的に活用されている。

このツール、ITや自動車などでは長年、メディカルなどでも一般的になってきたが、まだまだその便利さを享受していない分野、企業も多い。OmegaTなどの無料ソフトウェアも存在する。自身で自分の文書を2言語で作成される方なども辞書代わりとして効率化のために試してみたはどうだろうか。

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